冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「リリー様っ、ここにいては危険です! 王宮裏の森を抜けて外へと出ましょう!」
「いいえ、ダメよ、ソフィア。すでに城の裏手にある街の一部が燃えている。だから今は迂闊に外に出るよりも、ここで状況の把握に務めたほうが賢明よ」
リリーは顔面蒼白のソフィアを宥めると、先ほど見下ろした城下町の光景を思い浮かべた。
昨日まで祭りの準備のために賑わっていた町は一転、各所で混乱の火の手が上がっている。
(きっとエドガーは、こちらが祭りで浮足立つのを見越して狙っていたのだわ……)
狡猾で残忍なエドガーの考えそうなことだと、リリーは唇を噛み締めた。
グラスゴー王国の現国王であるエドガーの要求は、ウォーリックの完全降伏。
エドガーはウォーリックが自分たちの配下につくなら、命だけは見逃してやるとウォーリック国王に提言していたということだ。
『ウォーリックがグラスゴーの配下につくなど絶対にあり得ない!』
けれど、優柔不断でプライドの高いウォーリック国王は、それに応じるか今の今まで渋っているのだ。
だからこの度の奇襲は、煮え切らない国王への最終通告的な脅しに違いない。
(でも気の短いエドガーのことだもの。こちらが少しでも意に沿わない動きをすれば、迷うことなく全兵力を持って攻め入ってくるわ)
つまり決断までの時間は、あまり残されてはいないということだ。
ただでさえ今、町では多くの民の命が無差別に脅かされている。
(ロニーたちのいる孤児院も、危ないかもしれない)
リリーは幽霊姫となってからの約三年、孤児院の子供たちの無事と幸せを祈り続けてきた。
(グラスゴーの侵略さえなければ、明日は子供たちも楽しみにしていただろう祭りが執り行われる予定だったのに……)
と、そのときふと、リリーは孤児院に毎年支援をしてくれていた【名も無き贈り主】のことを思い出した。
きつく閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げ、胸に手を当てたリリーは息を吐いてから侍女のソフィアを振り返る。