冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「ソフィア……。これから私が言うことを、よく聞いて」
「リリー様……?」
突然声色を落としたリリーを前に、ソフィアが不安げに瞳を揺らした。
対してリリーは、穏やかな笑みを浮かべてみせる。
彼女の娘であるオリビアは、緊急事態にも気付かず小屋の中で眠っていた。
愛娘の寝顔を思い浮かべながら、リリーは自身の決意を揺ぎなきものにするように、真っすぐ顔を上げたままでソフィアに自身の決意を語り始める。
「もしも……お父様がこのままラフバラとの和平にも応じず、グラスゴーにも降伏しないと決めたときには、私がエドガーのもとへと直談判に行くわ」
「リリー様⁉ なにを仰るのです!」
「エドガーは、生前の私をいたく気に入っていた。もちろん彼は私を死んだものと思っているでしょうけど……。それは、病を乗り越えたとでもなんでも、うまく説明するつもり」
もちろん、それでエドガーが納得するかどうかはわからない。
けれど、どんな嘘や方便を使ってでも、今はエドガーの注意を逸らす何かが必要なのだ。
「私が交渉の場に現れればエドガーも、必ず動揺するでしょう。それは、ほんの少しだとしても確実な時間稼ぎになる。その間に、お父様には決断をしていただくの。そもそも……私が彼との政略結婚を台無しにしたから、こんなことになったのよ。だから、ソフィア。そのときはオリビアを……私の代わりに、どうか守って。よろしくね」
そう言うとリリーは、ソフィアを見て女神のような笑みをたたえた。
「オリビアだけじゃない。いつの日か……世界中の子供たちが安心して眠れる夜がくるように、私はどこにいても願い続けるわ」
『いつか……世界中の子供たちが安心して眠れる夜がくるように、俺も毎日願っている』
それはあの晩、隻眼の衛兵がリリーに告げた言葉だった。
清廉なリリーの決意を受け止めたソフィアは声を詰まらせ、祈るように震える両手を胸の前で握りしめる。
もう自分ではリリーを止めることはできないと、ソフィアは絶望の中で察したのだ。