冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「これから私は、今の話をお父様とアイザックお兄様のもとへ伝えに行くわ──」
けれど、リリーがそう言って踵を返そうとした、そのとき。
「──え?」
突然、騎馬の猛々しい鳴き声が辺りに響いて、花園を囲む木々がザワザワとざわめいた。
(な、なに……!?)
言いようのない緊張感と不穏な予感を覚えたリリーは、鳴き声の聞こえたほうへと目を向ける。
すると直後、力強く地を蹴る馬の蹄の音が聞こえ、我に返ったリリーは慌ててソフィアに向かって声を荒げた。
「いけない……! ソフィア! 小屋の中に入って! 早く‼」
「おいっ! お前たち、そこで何をしている⁉」
けれどリリーの賢明な判断も虚しく、次の瞬間には凜とした声が、リリーたちを呼びつけた。
弾かれたようにリリーが振り向けば、彫刻のように美しい漆黒馬に跨った騎士の鋭い視線に射抜かれる。
「え──」
「お前は──!」
馬上の騎士は、リリーを見るなり大きく目を見開いて息を呑んだ。
そして手綱を持つ手に力を込めると、にわかに信じられないといった様子でリリーを頭のてっぺんから足先まで視線で撫でた。
「あ、あなたは……」
対してリリーも、突然現れた騎士の風貌に意表を突かれ、思わず声をつまらせた。
(ま、まさか隻眼の衛兵……?)
目の前にいる騎士は、左目に黒い眼帯をしていたのだ。
闇に紛れるような黒髪も、あの日見た男と同じで、一瞬にしてあの晩の記憶がリリーの脳裏に蘇る。
(お、落ち着いて、リリー。違うわ……あの人ではない。だって、あの人が包帯をしていたのは右目で、今目の前にいる騎士が眼帯をしているのは左目だもの)
精いっぱい狼狽を押し込めたリリーは、何度か目を瞬かせた。
騎士は、ウォーリックではなく、他国の騎士の軍服をまとっている。
何よりあの晩の男と決定的に違うものが、ひとつあった。