冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「まさか、そんなはずは……」
リリーを見つめる騎士の瞳の色は、太陽を隠す雲のような深みのある灰色だ。
(隻眼の衛兵の瞳の色は、私やオリビアと同じオリーブ色だったから、この人は別人だわ)
隻眼の衛兵の瞳が愛おしげにリリーを見つめていたことを、リリーは頭の片隅で思い出していた。
リリーと娘のオリビア、そして衛兵の三人を繋ぐ唯一の色がオリーブ色なのだ。
「そ、そ、その軍服は……! まさか、ラフバラの聖の騎士団のものでは……っ」
と、不意に沈黙を破ったのは、ソフィアの恐れ慄いた悲鳴にも似た声だった。
ソフィアの言葉にハッと我に返ったリリーは、「ラフバラの聖騎士団……?」とつぶやき、へなへなと腰を抜かしたソフィアへと目を向ける。
「ラフバラの聖騎士団は、ラフバラ国王が絶大な信頼を寄せている精鋭たちのことでございます! 大変悪名高く、何より冷酷無比な騎士団長が軍を率いていることが有名で──」
と、震える声でそこまで言ったソフィアは、しまった!という顔をして、慌てて口を噤んだ。
(ラフバラの聖騎士団──。そういえば以前お父様が、ラフバラには精鋭を集めた厄介な騎士団が存在すると言っていたけれど、まさかこの人がその騎士団の隊員なの?)
ソフィアの言葉に父から聞かされた話を思い出したリリーは、改めて馬上の騎士へと目を向けた。
『聖騎士団の通ったあとには、草の根ひとつ残らない』
『奴らは攻め入った国の城下町に火を放って焼き払うような、非情なやり方を得意とする野蛮な連中の集まりだ』
それは、以前にリリーの父であるウォーリック国王に聞かされた話だ。
ゾッと背筋を凍らせたリリーは、なんとか狼狽を押し込めて口を開く。