冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「でも、どうしてラフバラの聖騎士団の騎士が、こんなところに──」


 けれど、リリーがそう尋ねようとしたら、


「きみは本当に……リリー・スペンサー王女なのか?」


 不意に騎士の低く心地の良い声が、リリーの質問を遮った。


「え……?」

「きみはウォーリック王国、第一王女、リリー・スペンサーだろう?」

「……っ!」


 思いもよらない騎士の問いに、リリーは目を見開いて口をつぐんだ。


(ど、どうして私が死んだはずの王女だと、すぐに気づいたの?)


 もちろんリリーは、騎士の顔に覚えがない。

 何よりリリーは、世間では不治の病で数年前に死んだことになっているのだ。

 それなのに騎士がどうして意図も簡単にリリーの正体に気がついたのか、リリーはまるで検討もつかなくて吐く息が震えた。


「なぁ、きみは本当に──」

「……そうよ。私はウォーリック王国の第一王女、リリー・スペンサーで間違いないわ」


 それでもリリーは動揺を精いっぱい隠してそう言うと、背後で腰を抜かすソフィアを守るように立ち、騎士を見上げた。

 仮に今、「自分はリリー王女ではない」と嘘をついたところで、この場を乗り切ることはできないと悟ったのだ。

 騎士にはそう思わせるほどの、有無を言わさぬ威厳と圧倒的なオーラがあった。

 だから今、下手な嘘をついて誤魔化すよりも、身分を明かして正々堂々と対峙したほうが、騎士の心象を悪くせずに済むとリリーは思ったのだ。


(この人には……どんな誤魔化しも、すべて見透かされてしまうような気がする)


 姿勢を正して臆することなく自身を見上げるリリーを前に、騎士は何か考えるところがあるのか、真意を探っているように見えた。


「あなたも人に名を尋ねるより先に、まずは自らが名乗るのが礼儀ではないかしら? 馬上から尋ねるというのも、失礼だわ」


 そんな騎士に対して、リリーは精いっぱい虚勢を張ってみせる。

 怯えているなどと思われ、下に見られてはいけない。

 何より今のリリーには、絶対に守らなければいけない〝わが子〟がいた。

 
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