冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「まさか……きみが生きているとは思わなかった」
対してリアムはそう言うと、とても静かに目を細める。
癖のない黒髪から覗く、鷹のように鋭い左目は真っすぐにリリーを捉えて離さない。
精悍な身体つきに、リリーよりも頭ひとつ半ほど高い背と、長い足。
彼の姿勢が良いからだろうか……粗暴と噂される騎士団とは真逆の気高さと気品が感じられ、彼からは溜め息も零れそうなほどの色気が滲み出ていた。
(左目の眼帯すらも、彼の容姿を引き立てる装飾品のようだわ)
それほど聖騎士団の騎士団長であるリアムは、完全無欠の美貌を持った男だったのだ。
リアムの髪色と同じ黒い軍服には、黒地に美しい金糸の刺繍の施された詰襟。
細身の下衣に重ねられた黒い編み上げロングブーツ、腰に下げられたサーベルの鞘にはラフバラ王家の紋章が刻まれていた。
(最初こそ、一瞬、隻眼の衛兵のことが脳裏をよぎってしまったけれど……。改めて見ると、優しい空気を持っていた彼とは似ても似つかないわよね……)
神秘的な灰色の瞳を見つめながら、リリーは改めて小さく首を横に振った。
そして顔を上げると真っすぐに、リアムの瞳を見つめ返す。
「あ、あなたがラフバラの聖騎士団の騎士団長であることはわかりました。けれど、その騎士団長様が、どうしてこのような場所にいらっしゃるのかしら?」
精一杯背筋を伸ばし、凜と通る声を響かせたリリーは、堂々とリアムの前に立ちはだかった。
「それに、ここは今は亡き母が愛した思い出の花園。血で濡れたブーツで、これ以上、この場所に足を踏み入れることは、私が許しません!」
断言したリリーは、リアムの視界から庭園の奥にある小屋を隠すように身体を動かした。
そんなリリーの真意に気づかぬリアムは、何故か慈愛を浮かべた目をリリーに向けている。
けれどリリーが、リアムの心の機微に気づくことはない。
今、リリーの頭の中は、どうすればこの場をやり過ごせるのかを必死に考えていた。