冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「気持ちよさそうに眠っていたから、連れてくることはできなかったわ。あの子も、突然環境が変わって疲れているの」
リリーはそう言うと右手で自身の左肘をギュッと掴んで、視線を斜め下へと逸した。
告げた言葉に嘘はないが、オリビアをここへ連れてこなかった一番の理由はたった今口にしたものとは別にある。
リアムは、敵対国の聖騎士団の騎士団長。
冷酷無比と噂されている男だ。当然ながら、信用などできるはずがない。
だからこそ、危険を孕む場所へ愛娘のオリビアを連れてきたくはなかった。
オリビアの母であるリリーからすれば、真っ当な選択といえるだろう。
「オリビアを連れてこいというあなたの要望に沿えなかったことは謝るわ、ごめんなさい。でも……あの子はまだ小さな子供だということを、どうかわかっていただきたいの」
敵の邸で、敵の命令に逆らうなど自殺行為だ。
このあと、どのような仕打ちに遭うか……と、リリーは密かに身構えたが、続いてリアムが発した言葉は、リリーの予想とは大きく異なるものだった。
「そうか。そのとおりだな。俺の方こそ配慮が行き届かず、無理なことを言ってすまなかった」
「え?」
「オリビアには明日改めて、会いに行こう。リリーの言うとおり、今日は疲れているだろうし、ゆっくりと寝かせてやるべきだ」
思いもよらないリアムの返答に、リリーは弾かれたように視線を上げた。
そうすれば艶のある黒髪から覗く、鷹のような目と目が合う。
部屋に入ってきたときには冷たい印象を受けた瞳は、今はどこか温かさを滲ませているように見えた。
(どうして……? なんで私を責めないの? やっぱり私には、彼が何を考えているのかさっぱり理解できないわ)
すっかりと夜に染まった室内で、黒の軍服のコートだけを脱いだ彼が、真っすぐにリリーを見つめていた。
スラリとした体躯は服の上からでもわかるほど、引き締まっている。
ゆらゆらと揺れるキャンドルの灯りが、彼の美術品のように洗練された容姿をより神秘的に魅せていて、リリーは不本意にも彼に見惚れて動けなくなった。