冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
「そもそもあの子は、自分に王家の血が流れていることも知らないの。私も、もう三年も前に死んだことになっている身よ? 今更私たちを攫ったところで、人質としての価値があるとは到底思えないわ」
そうしてゆっくりと顔を上げたリリーは、恐れを抱きながらも再度真っすぐにリアムを見つめた。
すると相変わらずリアムの目は一心に、リリーへと向けられていて、ドキリと胸の鼓動が小さく跳ねる。
「俺が、きみたちを人質に……?」
けれど、そうぽつりと呟いたリアムの瞳には、何故か戸惑いとも切なさとも取れる動揺の色が浮かんでいた。
ギュッと握りしめられた拳は、今の彼の心情を表しているようだった。
初めて見るリアムの弱弱しい表情に、リリーは思わずゴクリと息をのんで押し黙った。
「リリー。きみは何か、勘違いをしている」
「勘違い?」
「俺は、きみたちを人質にするためにここへ連れてきたんじゃない。大切なきみやオリビアを、政治的取引に利用しようなどと思えるはずがない」
そう言ったリアムは手に持っていたぬいぐるみを再度デスクの上に置くと、リリーに向かって歩いてきた。
月明かりを背負う彼は妖艶で、リリーは再びリアムから目をそらせなくなってしまう。
段々とふたりの距離は近づき、リアムが起こしたわずかな風で揺れたキャンドルの灯りは、まるでリリーの今の心を表すように、頼りなく揺らめいた。
「やっと、こうしてきみをそばに置けるのに、手離すはずがないだろう」
「それは、どういう――」
「だが……きみの言うとおりだ。俺の手は、血に濡れている。この手では、オリビアだけでなく、純潔なきみにさえ触れることも許されないのだろう」
リリーの目の前で足を止めたリアムは、そう言って自身の胸の前で、強く拳を握りしめた。
その手はわずかに震えている。
それが怒りからくるものなのか、それとも別の理由で震えているのかは、今のリリーが計り知るはずもなかった。