冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 


「で、でも……。何故、ラフバラがウォーリックに手を差し伸べるようなことを? 両国はまだ、正式な和平も結んでいないのに」


 しかし、リリーが疑問に思うのも当然だった。

 両国には争いを続けてきた長い歴史があるが、近年申し入れられたラフバラからの和平にもウォーリックは頑なに応じず、好意を袖にし続けているのだ。


「本来ならば、ラフバラがウォーリックを助ける義理などないはずよ」

「ああ、そうだな。だがそれは、あくまで表面上のことにすぎない。今回、我々が動いたのはアイザック王子からの要請を受けてのことだ」

「……アイザックお兄様が?」

「ああ。実はアイザック王子は以前より秘密裏に動いておられ、ラフバラの国王と機密を共有しあう間柄なのだ」

「ま、まさか、お兄様とラフバラの国王陛下が……」

「信じられないかもしれないが、それが真実だ。だから今回、ウォーリックにグラスゴーの軍が攻め入ろうとしているという情報も共有していて、我々はラフバラ国王の命(めい)を受けて動いたというわけだ」


 想定外の事実に驚いたリリーは、今度こそ言葉を失くした。

 少なくとも兄のアイザックは、父であるウォーリック国王を出し抜き、暗躍していたというわけだ。


「アイザック王子は、自分に政権が移り次第、ラフバラとの和平に速やかに応じるという書面も、正式にラフバラ国王と交わされている。だからこそラフバラは、これまでウォーリックに対して強硬手段は取らずに、つかず離れずの関係を保ってきたのだ」


 大国と謳われるラフバラが、長年に渡りウォーリックに譲歩し続けることを、リリーはずっと疑問に思っていた。

 だが、たった今リアムから聞かされた話で、絡まっていた疑問の糸が解けて消える。

 聡明な兄のアイザックは、愚鈍な父の裏で自分が王になったときの地盤を、着々と固めていたのだ。

 きっと、両国の間で交わされた書面には他にも政治的なやり取りがいくつも交わされているのだろう。

 そう考えるとアイザックがリリーに幽霊姫となるように進言したのも、リリーをグラスゴーのエドガーのもとへと嫁がせないための手段のひとつだったのかもしれないと、リリーは今更になって気がついた。

 
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