モテ期を過ぎた後は寂しいけれど…

綾乃の部屋からの 帰り道。

気持ち良い 春の夜。

誠と 手を繋いで 歩いて。


「俺さぁ。渚が思っているよりも ずっと真剣に 渚のこと 好きだったんだよ。昔から…」

「えっ?」

誠は 一緒にいても 

あまり 好きとか 言わないから。

私は 驚いて 一瞬 立ち止まってしまう。


「中学生だったけど。いっつも 渚のこと 見てたなぁ…」

「私 全然 気付かなかった…」

「渚 あの頃 三井のこと 好きだったろう?」

「うん。好きっていうほど 確かな気持ちじゃなかったけど。気になっていた…少し。」

「三井も 目立っていたからなぁ…」

「あの頃って そういう簡単なことで 好きな気が しちゃうじゃない?私も その程度のことだったんだよ。」

「そういう奴も いたかもしれないけど。俺は 違ってた。」

「誠 何も 言ってくれなかったじゃない…」

「なんかさ。渚が 大人に見えて。渚に 相応しくならないと。声かけられなかったんだ。」

「そんなこと…私 普通なのに。」


「うん。やっと わかった。渚も綾乃も 普通なんだよなぁ。まわりが 特別扱いして。2人を 縛っていたんだね。」

「東京に来てから 結構 辛かったんだぁ 私。普通じゃ いけないような 気がして。空回りしてた。ずっと…」

「俺も。気負い過ぎてたって 気付いた。やっと。渚 寂しがり屋で 弱虫で。俺 頼られて すごく 嬉しいし。」

「誠が 一緒にいてくれると 少しは 好きな自分に なれるから。」


不意に 誠は立ち止まって 私を 抱きしめた。






< 72 / 78 >

この作品をシェア

pagetop