ボーダーライン。Neo【上】
 急に胃の底がズグン、と痛んだ気がした。

 指先が震え、それを止める為、再びグッとハンドルを握り締める。

「それに。檜は酷くないよ。いつだって奈々には優しかったもん。奈々は、良かったの。ただヤるだけの関係でも」

「水城さん」

「檜の一番近くに居られたら、いつかカノジョになれるかもってっ。思ってたし……っ」

 次第に彼女の声が震え、泣いているのだと分かった。

「だけど、もう止めよって言われて。奈々もぉ、どうしたらいいか……分かんなくてっ」

 はらはらと涙を流す彼女を横目に、居たたまれない気持ちになった。十七歳なんて、まだまだ多感な時期なのだ。

 彼女自身がこの失恋から立ち直れる事を、あたしはただ祈るしかなかった。

「檜が好きで、振り向いて貰いたくて。それでお金を作ろうって、思ったの」

「どういう事?」

 思わず眉をひそめた。

「前に檜が、新しいギター欲しいって言ってたから。奈々、協力したくて」

 ーーそのために、万引きを……?

 それは‘貢ぐ行為’だと。一瞬、彼女に言いかけた。

 けれど傷付いた水城さんに、その言葉は酷過ぎた。

 あたしは口をつぐみ、無難な言葉を選んだ。

「水城さんが彼を好きで、喜ばせたいと思ったのは分かるけど。お金じゃ人の心は買えないわ」

「っかってる、分かってるけど。何もせずにはいられなかったの……っ!」

 すすり泣く彼女の声を聞きながら、あたしは眉間にシワを刻んだ。
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