ボーダーライン。Neo【上】
◇ ♂
「それではFAVORITEの皆さま、お疲れ様でした」
記者の台詞にリーダーの陸を始め、それぞれがお疲れ様です、と会釈を返す。
今日は午前から新曲リリースについての撮影を兼ね、雑誌のインタビューがあった。
メンバーのひとりひとりが順に呼ばれ、記者の質問に答える。その間に写真撮影をする。こういった仕事は日常茶飯事だ。
僕は腕時計の文字盤に目を落とした。
次の仕事は隣りのスタジオで、移動に時間もかからない為、空き時間がある。
とりあえず楽屋で何か口にしようと思い、廊下へ向かう際、不意に呼び止められた。
「あの、すみません」
その声に全員が振り返る。
「あ。Hinokiさんだけ、ちょっと良いですか?」
ーー何で俺だけ?
腰を低くして言うのは、さっきまで一緒だった女性記者だ。
「すみません、お時間はあまり取らせませんので」
申し訳程度に、彼女は柏手を作る。
何だろう、と真顔になる僕に対し、メンバー達は「先に行ってるぞ~?」と廊下を進んで行った。
「何ですか?」
僕は得意の営業スマイルを作りつつ、首を傾げた。女性記者は安堵し、頬を染める。
「実はこの春、うちの雑誌に配属された女性社員がいるんですけど。どうしてもHinokiさんと会って話がしたい、と聞かなくて」
「はぁ」
「今は外で待ってるんですけど、少しで良いのでお時間頂けませんか?」