ボーダーライン。Neo【上】
「毎日凄く忙しそうだけど、元気?」
美波さんは目に郷愁の色を浮かべ、微笑んだ。
当時。ストレートだった黒髪は、今では緩やかにパーマがかかり、サイドで纏められている。
品の良い化粧で相変わらずの美人だな、と思う。
はい、まぁ、と返事をし、僅かに唇の端を持ち上げた。
個人的に嫌いな人物では無いが、美波さんを見ると、否応無しに彼女を思い出してしまう。
それに美波さんと会うのは、初めて行った"あの"ワンマンライブ以来なのだ。
僕は過去を思い出していた。あれは五年前の八月の事だ。
あの日は、所属事務所の代表、三高社長のおまけ記事として、FAVORITEを紹介して貰うため、美波さんがライブハウスの楽屋へ訪れた。
取材という名目で来ていたので、そこに幸子の姿は無く、美波さんが退室してすぐ、僕は彼女の後を追い掛けた。
美波さんに付いて行けば、幸子に会えると思っていたし、彼女と親友の美波さんは、僕の良き相談相手でもあり、当時気さくに喋れる間柄だった。
結果論、既に幸子は帰った後だと言われ、当てが外れた僕は、美波さんと話しがてらコンビニへ行く事にした。
美波さんの後に続き、地下から地上への階段を一段一段昇っていた、まさにその時だ。