ボーダーライン。Neo【上】
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数センチのヒールを履いた彼女が、急に段差を踏み外し、ぐらりと体勢を崩した。
「っぶね!!」
「きゃッ!?」
僕は左手でグッと手すりを掴み、咄嗟に伸ばした右手で彼女の体を支えた。
にわかに生じたハプニングのため、幸子以外の女性を抱き抱える格好となり、幾らかたじろいでしまう。
顔を上げた美波さんと至近距離で目が合った。
彼女は、僕の腕から逃れるように離れ、慌てて取り繕う。中途半端に脱げたハイヒールを履き直し、前に流れたサイドの髪を耳にかけた。赤い顔で、ごめんなさい、と呟いた。
「あ、あたし。ここのところ仕事で忙しくて。会社泊まりだからロクに寝てなくて。びっくりしたよね? てか、重かったよね?」
「え、いや」
「ごめんね。締め切り間際はあたしいつもこんなんで。
だから寝起きとか身の回りの事とか割と適当って言うか。あ、でも不思議と体だけは丈夫なのよ?」
自らの失態を恥じる彼女はやけに饒舌で。その様子が可笑しくて、僕はアハハ、とつい顔を崩して笑った。
「見た目通りのキャリアウーマン。そんな事言ってっけど、あんまり無茶するといつかは体こわすよ?」
「そう、よね」
「美波さんって自分の事とかしっかりしてそうなイメージなのに、実は結構抜けてるんスね?」