ボーダーライン。Neo【上】
「でも、ごめんね? あたしにも立場が有るから」

 再び眉を下げた秋月くんは、何だか置いてけぼりをくった犬みたいだ。

「相変わらずお堅いなぁ~、サチは」

 ーーえ。美波?

 いつから居たんだろう。少し離れたドアの前に、腕を組んだ美波が立っていた。

「バイトぐらい、許してあげれば?」

「美波」

「ごめんね、待っててもサチなかなか戻って来ないから。聞いちゃった」

「それは別に」

 美波はあたし達の元へ歩み寄り、秋月くんに軽く会釈した。

「いいんじゃない? 少年、働きたいみたいだし。目ぇつぶってあげれば」

「そんな簡単にいかないよ。あたしこの子の担任なんだから」

「担任だからこそ、言ってるんだけど?」

 ーー何よ、美波ってば。そんな言い方ずるい。

「バレたらどうするのよ。色々言われるのはあたしなんだからね?」

「バレやしないわよ、あの高校からどれだけ離れてると思ってんの? ねぇ? 少年」

「え……、はぁ」

 秋月くんは狼狽えた様子で曖昧に頷いた。

「未来ある若者がやりたい事の為に社会勉強、結構じゃない?」

 確かにそうだ。校則を抜きにしたら、経験として働くのは悪い事じゃない。

 けれど、どこか腑に落ちず、苛立つ自分がいるのも確かだ。

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