ボーダーライン。Neo【上】
 あたしは、もう、と呟き、頬を膨らませた。

「まぁまぁ。少年相手にそう怒らなくても」

「怒ってないし」

「あら、そ?」

 状況からして、あたしが折れなければいけない空気になっていた。

 分かった、と半ば諦め口調でひとりごちる。

「バイト、目ぇつぶったげる」

「マジ、で?」

 余程安心したのか、秋月くんが分かりやすく口角を上げた。

「ただし、あたしがマズいと思ったらすぐに辞める事。いいわね?」

 弟に言い聞かせるような気迫で、ジッと彼の目を見て言うと、秋月くんは黙ってコクンと頷いた。

「ったく」

 うまく美波に言いくるめられた気がして、やはり面白くない気分だったが。あたしは若干むくれながらも、先に店へと戻った。




 手で包み込んだ梅酒のグラスをぼんやりと見つめていた。

 あたしが注いだ視線の分だけ、氷が小さくなっている気がして、ふと顔を上げた。

 三日前の事を思い出しながら沈黙している間。

 隣りの美波は、スマホ片手に、同僚と連絡を取り合っていた。彼女のグラスは既に空っぽだ。

 新しいお酒は頼まなくて良いのかな、と思い、カウンターの奥で作業をする秋月くんに目を向けた。

 ちょうどシェーカーから出来上がったお酒をグラスに注ぎ、別の女性客の手前へ置いたところだ。
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