ボーダーライン。Neo【上】
 彼のすらりと綺麗な手を何気なく見つめ、あたしはムッとした。

 秋月くんはその女性客に手を握られ、何か言われたようだった。お持ち帰り、とか何とか聞こえて嫌な気持ちになる。

 苛々するあたしとは打って変わり、秋月くんは涼しい顔で愛想笑いを浮かべていた。

 時々、思う事がある。

 あたしにとって、秋月くんって一体何なんだろう。

 ただの生徒。……ではない。絶対に。もっとそれ以上に特別な何か。

 秋月くんの前だと、つい油断して、素の自分を出してしまうし、こうしてお酒を飲んでいる姿も見せている。教師なのに。八つも年上なのに。

 他の生徒じゃ有り得ないのに、秋月くんだけ……

 つい最近まで、彼を恋愛対象として意識してしまったせいか、単なる生徒の一人で片付けられない。

 ましてや、あたしにはまだ彼氏がいる。一カ月にたった数回しか会わない、カッコ付きの彼氏が。

 こんな中途半端な自分が嫌だった。動き出そうと思えば出来るはずなのに、年齢とかこの先の不安とかを気にして、立ち止まっている。

 あたしは手元のグラスを掴み、中身をひと口飲み込んだ。

「マスター。お盆はお店、閉めてるんでしょ? お休みはいつからいつまで?」
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