ボーダーライン。Neo【上】
 何となく、自然な感じで秋月くんを見れない自分がいて、あたしはグラスを持ったまま俯いていた。

「檜くんとカイくんは~。バイト無い間、何するの?」

「は? 何でそんな事」

「あ、学生だから彼女とデートか!」

「つか、いないし!」

 ーー彼女。いないんだよね。

 あたしは前にも聞いた言葉を思い出し、彼を見上げた。

 ーーそういえば、何で彼女作らないんだろう。秋月くんなら選《よ》り取り見取《みど》り、選びたい放題だろうに。

 お酒が入っているせいか、不意に秋月くんと目が合うが。あたしは自然と微笑む事が出来た。

「こいつらいいとこ行くんですよ? なぁ、檜?」

 背後からマスターが話に参加する。

「え、いいとこ!? どこどこ??」

 テンションの上がる美波を嫌がってるのか、ふいと秋月くんが顔を背けた。

 もうそれ以上、絡まない方が良いよ、と言うべきだろうか。

「イギリスのロンドンです」

 食いつく美波に答えたのは、カイくんだった。

 ちょうどその時、女性二人がレジ前に立ち、マスターが急いで会計に向かう。

「え、うそ!  ロンドン?! いいなぁ、いいなぁ~! あたしも行きたいっ!!」

 ーーうん。あたしも行きたい。

「行きたきゃ勝手に行って下さい」

 ピシャリと言い放つ秋月くんに、美波は口を尖らせた。

 そりゃそうよね、とあたしも何故か打ちのめされた気分になる。
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