キミの世界で一番嫌いな人。
ドン───ッ!
ビチャッ!!
「……」
やってしまったと、後悔しても遅い。
つい我慢できず飲みながら向かっていたばかりに、とんでもないことが目の前で起きている。
「……ご、ごめん…なさーい…、」
鉢合わせた男の顔面に降りかけてしまったのは、牛乳。
まさか同じタイミングでいらっしゃるなんて…。
ぜんぜん人の気配がしないからって、はしゃぎすぎた。
「…それがお前の人に対する恩の返し方か」
その声は聞き覚えがあったから、下げていた頭をバッと勢いよく上げてみる。
目の前の存在は低い声を発しながらマスクを取った。
─────…あ。
まさかこんなところで、こんな形で。
「…なにジロジロ見てんだよ」
「あっ、いや、その、牛乳すごいなって…」
「誰のせいだ」
藤城…理久だ……。
間違いない、ハーフのような顔立ちは記憶のなかにいる少年だ。
私に心臓を分けてくれた人。
まさか朝に助けてくれたのも彼だったなんて…。
そして私は、藤城 理久に牛乳を降りかけてしまうなんて。
「ふじしろ…りく……、」
「なんで俺の名前しってんだよ。教えた覚えねぇけど」
「あっ、ゆ、有名なんで…」
バシャバシャと、屋上脇にある水道で顔を洗う藤城 理久。