キミの世界で一番嫌いな人。




「俺は金で売られたんだよ。てめぇの父親が差し出してきた金に、…俺の心臓は買われたんだ」



謝れないと思った。

謝るなんて、そんな軽い言葉すら使ってはいけない。


それがこの人を何よりも傷つける。

いちばんは、やっぱり私がこの人の前に現れないことだ。



「…お前の名前を教えろ」


「……できないです、」


「そうか、なら金輪際俺の前に現れんな」



最初と同じ言葉だ。

それがどこか嬉しく感じてしまった自分が、この上なく大嫌い。



「わ、わかりました。…でも…ひとつだけ、」



首元に当てられた力が少しだけ緩まった。

なんだ、と目線が答えてくる。


泣いちゃだめだ。
私が泣くなんておかしい。



「兄は…あなたのことが大好きなんです…。私のことが赦せなくても、兄とは今まで通り仲良くしてあげてください……、お願いします」


「…あいつはお前のことはあまり知らねぇらしいが」


「…はい。兄とはあまり会ってはいないので…。でも兄は、あなたに出会って変わったんです」



もうぐっちゃぐちゃ、矛盾だらけ。

自分でも何を言ってるか半分以上わかってない。


本当に私ってズルい。



< 78 / 317 >

この作品をシェア

pagetop