新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
十六時になると、私は三泊四日用の黒いキャリーケースを自分の部屋から玄関先に移動させる。

向こうに泊まったとしても一、二泊と聞いており、荷物はキャリーケースの中で四分の一ほどしか場所を取っていない。

 もっと小さなキャリーケースでも十分だったけれど、お土産をたくさん買いたいのでこの大きさを選んだのだ。
 
帰国の手配は結城さんという馬主がしてくれることになっていた。

「忘れ物はないか?」

 おじいちゃんがいつの間にか背後に立っていた。

「うん。パスポートも持ったし」

 胸の位置で斜めがけしたボディバッグをポンと叩いてみせる。カーキ色のボディバッグは最近のお気に入りだ。なんといっても両手が使えるし、ナイロン素材だから丈夫で軽い。

「紅里、いつもと同じ格好じゃないか。違う服はなかったのか?」

 おじいちゃんは私を上から下までじろりと見て顔をしかめる。

 フランネル生地では暑いと思って選んだ、綿の格子柄のブルー系のシャツに、その下の白いTシャツ、そしてまだ数回しか穿いていないデニム。いちおう気を使ったつもりだった。

 くるくるウエーブのある髪はうしろでひとつに黒ゴムで結んでいる。

「いつもと同じのがいいの。十何時間も飛行機の中なんだから」

 機内での過ごし方なんてわからないけれど、長時間乗っているんだから楽な方がいい。しかも私のクローゼットには似たり寄ったりの服しかない。

「まったく。女らしくならないと嫁にも行けないぞ?」
「嫁に? そんなの考えられないから。おじいちゃん、安心してね!」
「余計に安心できん。ほら、これを持っていけ」

 急に苦虫を噛みつぶしたような顔になったおじいちゃんは、手に持っていた白い封筒を私に差し出す。

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