新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
 三十分後、車は街を離れ青々とした緑の中を進み、赤い塔と石造りの円形の建物が数棟見えてきた。
 
 それらはおそらく飼料保存庫、〝サイロ〟だろうと推測する。
 
 まるでメルヘンの世界に迷い込んだような牧場だった。以前から雪丸の馬主はニースに広大な牧場を所有していると聞いていた。

「ここには牛も羊もいる。競走馬は奥だ」

 車は柵と柵の間の舗装されていない道をどんどん進んでいく。

 柵の中では放牧された牛がのんびり葉を食んでいる。

 数分後、重厚な石造りの建物の前に到着した。私たちが車から降りている間に、建物の中から男性が姿を現していた。

 見覚えのあるその人は、一緒にチャーター機に乗ってきた獣医師だった。

 結城さんは獣医師と握手をして会話をする。聞きなれない言葉はフランス語のようだ。結城さんはまるで母国語のように流暢に話している。

 獣医師と話し終えた結城さんは私に向き直る。彼の表情は先ほどよりも曇っているように見えた。

「日野戸さん、スノーラウンドの体重が十二キロも減っている。機内で食欲がないのは仕方がないが、今も食べないそうだ」
「会わせてください」

 結城さんは獣医師になにかを言ってうなずく。

「こっちだ」

 獣医師を先頭に、急いで雪丸のいる馬房に向かった。

 うちよりも広い牧場で、競走馬のいる厩舎に着いたとき私の息は微かに上がっていた。きっと五分間くらい早足だったと思う。

 隣で歩いていた結城さんは平然としていて、なんだか悔しい。
 
 案内された厩舎は大きく、多くの馬がいるようだ。
 
 獣医師は雪丸の馬房の前で足を止めた。
 
 雪丸は私たちにお尻を向けて首を垂らしていた。
 
 かわいそうに……新しい環境で戸惑っているのだろう。

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