新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
 再び結城さんの住まいのあるモナコへ向かう車の中、ぼんやりと景色を見ながら先ほどの光景を思い出していた。

 厩舎から出るとき結城さんは別の馬房に寄った。そこには横になっているサラブレッドがいて、そばで先ほどの獣医師が診ていたけれど、脚に怪我をしているその馬が深刻な状況にあることは育成所で勉強した私にはわかった。

 故障の程度によっては安楽死をさせることもある。

 雪丸だって怪我をする可能性があるだろう。そのときはそういった選択も……。

 考えながら、必死に涙をこらえた。

 運転席から見えないように横を向いて手の甲で目尻を拭う。

「どうした?」

 気づいてほしくなかったのに声をかけられて、私は頭だけ左右に振った。

 すると結城さんはハンドルを切って、車を路肩に停めてしまった。

「なんでもないわけがないだろう?」

 問いつめてくる結城さんの顔を見られない。

「日野戸さん?」

 私はもう一度手の甲で目のあたりを拭って深呼吸をすると、彼に向き直った。

「スノーラウンドと別れたのがそんなにつらい?」
「……あの、お願いがあります」

 結城さんは私の赤くなっているであろう目を見て、微かに首をかしげる。

「言ってみて」
「さっきのサラブレッドを見て思ったんです。雪丸の成績が悪かったり、怪我をしたりした場合、処分はしないでください。私のもとへ送ってください」

 私は真摯に言って頭を下げた。

「君のもとへ送る? 輸送費にどれだけかかると思う?」
「私が一生かけても払います。だから、どんなことがあっても私に連絡ください」

 もう一度、頭をこれ以上ないほどに下げた。

「……わかった。スノーラウンドはいい馬だ。君たちの絆は今後も変わらないだろうし、君の彼に対する愛情は並々ならぬものを感じる。スノーラウンドは幸せに育ったようだ。万が一の場合は君に連絡するよ」

 安堵して肩の力が抜けていく。

「ありがとうございます! これでスッキリして日本へ帰れます!」

 さっきまで鬱々としていた気分は結城さんの言葉で晴れて、気づけば私は満面の笑みを浮かべていた。

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