新妻の条件~独占欲を煽られたCEOの極上プロポーズ~
「どうしたの? 考え事?」

 おじいちゃんの持っている書類へ視線を向けると、そこに書かれてある〝スノーラウンド〟の文字が目に入った。

「お、おじいちゃん! スノーラウンドって、雪丸のことよね?」
「ああ。とうとう、我々の手を離れるときが来たんだよ。お前はショックだろうが」

 雪丸には生まれたときから馬主がいた。優秀なサラブレッドの子種で生まれた雪丸。ほとんどを海外で過ごす馬主に、日本ではなくフランスの競馬界で雪丸を活躍させたいとの意向があるのは売買契約時にわかっていた。

 雪丸は素晴らしい馬なので、もっといい調教師や騎手に巡り会って、思いっきり走らせてあげたい。

 それは十分承知していたけれど、雪丸との別れは、一緒に生活していた私にとってつらい。

「……それで、いつ?」

 胸がシクシク痛むのを気にしないようにして尋ねる。

「五月五日だ。出国に合わせて検疫厩舎に雪丸を預ける」

 海外遠征を行う競走馬には各種検査やワクチン注射などを行い、伝染病などの拡散を防ぐ処置がされる。

 私は壁にかかっているカレンダーへ顔を向けた。

「あと……九日……」

 かわいがっていた雪丸があと九日でいなくなるのだ。泣きたくなるのを、下唇を噛んでこらえる。

 これは決まっていたこと。

 今までありがとうという気持ちで、送り出してあげなきゃ。

「……ご、ご飯の支度するね」

 ギシッと床に音を立てて、おじいちゃんに背を向けた。

「紅里」
「な、なに?」

 声が震えて泣いてしまわないように強く言う。

< 7 / 67 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop