もう二度ともう一度

「視線の先」

 野々原はそのまま行ってしまった。早川はつい他人からすればワケの分からない事を口走ってしまったが、そのままおかしな人間と思われていた方が楽だと思ってもいた。

 何故なら、過去の記憶通りであれば二人はこれから恋に落ちたからだ。とにかく、今回はそんな事は避けて通りたい。
 目立ないよう、誰にも迷惑を掛けたくなかった。


『ま、それならそれで、ヨシとしよう。さぁて、今はリレーだ』


 始まった競技を見ていた。早川のC組は、序盤の出遅れからそのまま四位辺りにいる。自分達中継ぎの出番間近でも中盤で膠着していた。
 あの野々原にバトンが渡るが、結果は変わらない。8組中、4番手だ。どこのクラスか興味もないが、一人突出している。

 必死に、そして少し申し訳無さそうに野々原のバトンが早川へ来る。前を向くとほんの少し前に二人がスタートした背中が見えた。

『ありゃ、こんな簡単だっけ?』

 早川の耳には音がまるで聞こえない、もうバカをやったお陰かすっかりリラックスし集中出来ていた。
 すぐに前二人を抑えて、インに入った。

『しかし、距離あるな・・でもまだここからだぞ!』

 会場が大きく揺れた、早川の猛追だ。誰もが視線を奪われた、本来なら互角よりやや優勢だった、そこからあれだけタイムが縮んだ現在ならこうもなる。そしてそれはまだグングンと距離を縮めて先頭に追い付こうとしている。

『追い抜けはしなくても、ここまで来ればまだわからんぜ!』

 しかしゴールが迫る中、早川が追うトップの背中が段々と大きくなって突然消えた。前走者が転んでしまった。まるであの時と同じだ。
 バトンを手渡すまで後少しで、早川は立ち止まってしまった。

『立てるか?』

 早川は手を差し出してすぐに引っ張り起こしたが、二人がバトンを受けてそれに抜かれて行いく形となった。



「あの時、行ってりゃ一位だったな」

 そんな事を仲間達が話している、早川は俯いたままだ。結果的には2着、早川は個人区間3位。
 これは少し形は違えど過去と同じ結果だった。もしかしたら運命は結局の所は変わらないかもしれない。

 こんなお祭り気分のレースを中断した落ち度などどうでもいいが、この世界で一人きり運命の流れに抗おうとする早川には、重たい結果だった。 


 そして、そんな早川を野々原あずさが見つめていた。
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