こんぺいとうびより
ミーティングスペースには誰もいなかった。一番手前のブースに入る。

テーブルの上はまっさらで何もなく、動画確認用のPCや資料がおいてあるわけではなかった。

「・・・なんて、嘘ですけど。」

璃子が振り向いて微笑んで言う。

「うん。わかってた。助かったよ。」

一直もわずかに微笑んだ。

「どうしたんですか?新貝さん、こういう時迷惑ならはっきり言いそうなのに。」

───朝はあんなに楽しそうにふざけてたのに、なんか元気ないな・・・。

「・・・。」

一直は無言で俯いてしまう。

「・・・何か、あったんですか?体調悪いとか、仕事で何か・・・。」

顔を覗き込んで言ってみるが目を合わせてはくれない。

「いや、ちょっと、色々考えることがあって。」

俯いたまま気まずそうに言う。

「あたしに何かできることあったら何でも言ってくださいね!!」

「・・・ありがとう。」




それからずっと一直の様子はおかしかった。

動画のことで話し合っている時もPC画面ばかり見て璃子の顔を見てくれることはなかったし、一人で自席にいる時も明らかに沈んだ様子で、真中や雑貨チーム社員の北岡悠馬(きたおかゆうま)が話しかけてもいつものようにふざける様子もなかった。

璃子も差し入れをしたり、彼が興味を持ちそうな話を持ちかけてみたものの、『ありがとう。』と言ったり、力なく笑うだけで彼の様子が変わることはなかった。

───実家のご家族が体調悪いとかなのかな・・・。

しつこく聞くわけにもいかず、心配が募るのみだった。




9月が終わり10月になった。

璃子は出勤した途端、駆け寄ってきた彩木から衝撃の事実を知らされた。
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