キミと、光の彼方へ。
教室にバッグを取りに戻り、すぐに昇降口に向かった。

靴箱を開け、ローファーを取り出す。

かかとをトントンとし、昇降口を出る。

耳に流れてくるのは、運動部の大声の大合唱。

プールの横を通ると水泳部の部員たちが上げる水しぶきの音が聞こえてくる。


―――バシャバシャバシャバシャバシャ。

―――ジャバーン、ザバーン。


その音の中に、海里も会沢さんもいる。

そして思い出す、去年の夏のこと。

海里は会沢さんのことが好きで、私は海里のことが好きだった。

だけど、会沢さんは彼のことが好きだった。

会沢さんは、去年のクリスマスに、彼に告白をし、成功して今に至る。

望んでいた構図だった。

会沢さんが彼と付き合えば、海里が諦めてくれる。

そうしたら私にも少しはチャンスが増えるかなって、そう思ってた。

でも、実際にはそんな上手くいかなくて、海里が私に心を移すことはなかった。

だからといって、会沢さんに猛アタックすることもなければ、会沢さんを諦めて別の人を好きになったみたいなことも言わない。

好きな人の幸せを静かに見守っている。

そんな感じだ。

私はというと、海里への気持ちが全く消えたわけでもないけど、もういいかなって思うようになった。

そうしたら、本当に吹っ切れた。

砂良には大分前から吹っ切れてるみたいなことを言われたが、そんなすぐにリセットできるほど、私の心は優秀じゃない。

恐らく半年は引きずり、少しばかりの希望を掴もうともがいていた。

もがくのを止めたら呼吸が楽になった。

生きるのが楽になった。

歩いていく道のりからバラのトゲが消えた。

足元のぬかるみがなくなった。

体が軽くなったのは痩せたからっていうのもあるけれど、それ以上に酸素が美味しくなったからだと分かった。

今まで守ってきたものを手放したら、逆に幸せが舞い込んできた。

海里と普通に話せるようになった。

海里と自然に笑い合えるようになった。

海里が家の前を通る時に、私や砂汐奈に挨拶をしてくれるようになった。

そんな些細な変化も嬉しくて、それを壊したくないと思った。

このままでいい。

これ以上、何も失いたくない。

これ以上、傷付きたくない。

これ以上、傷付けたくない。

もう誰も。

だから、また私は自分の心に蓋をする。

何も見えないように、

何も聞こえないように、

何にも触れないように、

どんな匂いも感じないように、

苦さを味わわないように、

そうやって五感を遮断した。

それでいいって、嫌になるほどに自分の心に暗示をかけて。

私は騒がしい音の中を歩いた。

その中に心地よい音がある。

砂を蹴る音、

踏み込む音、

飛び上がる音、

マットに沈む音。

目を閉じていても分かる。

この音を聞くと、なぜか安心する。

でも、時に痛くなる。

その感情の理由が分かるようで分からなくて、私は不鮮明な海の中を泳ぐ。


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