二人の距離~やさしい愛にふれて~
「この前の外出もうまくいってね、あれから公園まで散歩したり、お母さんと一緒に本を買いに行ったりちょこちょこ外出できてるんだよ。理花さん自身も安定してきてるし、芹沢君がいると薬がいらないみたいなんだ。どうしようもなかったら夜中に連れて戻ってきてもいいし。」

「理花も恭吾が来たら外泊できるかもって楽しみにしてたんです。こんなに早く叶うなんて。」

陽斗は恭吾の肩に手を置き、俯く。目には涙が浮かんできていた。

「正直、俺自身は不安しかないっす。俺ってただ普通にいるだけだし、何ができてるとかないんですよ。」

「まぁね、心の不調って薬を飲むくらいはできても本人の問題な部分が大きいから。今の理花さんにとって心の安定が君なんだよ。」

「でも俺といるとあっちでのこととか思い出すだろうし、悪影響なんじゃないかって思って…。」

「そんなことないよ。現に君が来てくれるようになってからみるみる明るくなってるし、本来の理花さんらしさが取り戻されてきてるんだ。ただね、これから先のことはまた別だからね。元気になるってことはいろんな余力ができるってことだからね。マイナスの方向に考える元気とか、変な行動に移す元気とか。だから気を抜かないでほしいし、慎重になってほしいかな。」

いつも笑顔の草野が真面目な顔をして話すので恭吾は緊張し、手に汗が出てくる。

「わかりました。あのっ、外泊って家に泊まるってことですよね?夜はどうするんですか?」

「それは理花さんのお母さんと話してて、お母さんと一緒の部屋で寝るように準備してくれるらしいよ。残念だけどまだ一緒に寝るのは刺激が強いかもね。」

草野は恭吾の緊張をほぐすためにあえておどけて言う。

「へっ?俺、そんなつもりじゃないっすよ。そもそも理花の実家でなんて…。」

照れてもごもご話す恭吾の肩に陽斗は強めにパンチをする。

「俺の可愛い妹に手出すなよ。」

眉間にしわを寄せて話す陽斗の顔が怖くてまた手に汗がにじむ。
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