冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
此度の遺産相続の手続きでは五〇パーセントが父名義、四〇パーセントが長男である弟名義、一〇パーセントが私名義へと変更された。

これらの情報は多くの投資家へすぐさま開示することとなったのだが、投資家でなくとも調べさえすれば、どこかで知ることができるだろう。
職場の先輩方の耳に入るのも、時間の問題だった。

『櫻衣さんって、十億も持ってるなんてすごいですね。少し分けて下さいよぉ』

『男性社員に高嶺の花とか言われてるけど、結局全員お嬢様の体と地位と十億円目当て。彼氏も結婚相手にも恵まれず、お可哀想に』

『社長令嬢だかなんだか知らないけど、いつも〝私は幸せ〟って顔しててイライラするの。あなたの幸せは、私たち社員の血と汗と涙の結晶でできてるってこと、わかってる?』

予想していた通り、以前にも増して職場での風当たりが強くなる。

どこからともなく、『十億円の社長令嬢』というヒソヒソ声が聞こえるようになって、それは帰宅しても耳鳴りのようにこびりついていた。

両親や弟には心配をかけたくないし、直接的に彼女達の生活に影響などあったら困るので、職場で嫌がらせを受けていることは相談できない。

ピンと張り詰めている虚勢の糸がぷつりと切れてしまうのが怖くて、友人にも少しも相談しなかった。
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