冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
私はぐっと唇を噛み締めて涙がこぼれないように我慢してから、場を和ませるためにパチンっと両手のひらを合わせた。

「……それじゃあ、この話はこれでお終い。お父さまも湊征も、くれぐれも何もしないでね」

受付係の先輩達には散々『十億円の社長令嬢』と揶揄されてきている。
『まさにそうだ』とでも言わんばかりに、地方へ異動などの処分を彼女達に下されたら困るので、目の前に座る父と、私と同じソファに並んで腰掛けている弟へしっかり念押しをする。

ふたりは行き場のない怒りや悲しみを追いやるように、大きなため息を吐いた。

父の隣でハンカチを手に聞いていた母は、「気がつかなくてごめんなさい」と静かに涙を零す。

「家族には心配をかけたくなかったの。だから、大丈夫。どうか気に病まないで」

すべては、私が不甲斐ないばかりに起きた事態なのだから。
私は眉を下げて、弱々しい笑みを浮かべた。

「お前の受付係としての仕事ぶりは、業界でも噂になっていた。取引先の社長も、些細な話題も忘れていない丁寧な応対には頭が下がる思いだと、熱心に話していたぞ」

受付にはお前に会い行っているという人もいた、と父は目を細めて私を見やる。

「お前と会話した後は心が弾むような心地で、より一層仕事に打ち込めるらしい。聞いたところによると、訪問客との会話を全て覚えていたそうじゃないか」
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