冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
岩国さんが眉を下げる。
本当の祖父母と孫のようにあんなに仲睦まじかったのに、突然一緒に来なくなるなんて、何か事情があるのかもしれないと察した彼は、渡す機会を失い手元に保管していたらしい。

「ですが、澪お嬢様とご結婚なされて……。私は感無量です。鶴山様もきっと、天国でお喜びでしょうね。おふたりのことを、本当に本当に大切になさっておいででしたから」

この写真はきっと、おふたりのご縁の原点でしょうから。差し上げますね。

老紳士はほろりと零れた涙をハンカチで拭うと、「それでは失礼致します。また御用聞きに参ります」と告げて帰っていった。


リビングルームには、不思議な静寂が降り立った。

夕食中も、部屋の空気は変わらない。何か物言いたげな宗鷹さんが時々こちらに視線をよこすが、首をかしげると「いや。いい」と唇を閉ざす。

妻の作る初めての夕食に対しては、「人参に芯が残っているが、家庭的で美味しい」という微妙な評価をいただき、「アドバイス感謝します。次回に期待しててください」と笑うしかなかった。
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