冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
「僕はその縁談に反対です。姉さんは、本当に好きになった人と恋愛結婚すべきだ」

父がこれ以上話し出すのを遮るかのごとく、隣から弟の湊征の、咎めるような声が割って入る。
襟足をすっきりと刈り上げた銀髪のマッシュヘアは、重たい前髪が彼の眉を隠しているため表情がわかりにくい。
けれど声音から読み取るに、かなり怒っている様子がうかがえる。

人気男性アイドルのごとく凛と華やかな美貌からは想像できぬほど、非常に過保護な性格をしている彼は、透き通った濃灰色の瞳をすっと細めた。

「こんな時代錯誤な政略結婚、僕は許せません。それに、M&Aも。僕が櫻衣商事の経営を立て直します。……姉さんを、保身のための道具にしたりはしない」

「まだわからないのか、湊征。それにその口の聞き方はなんだ。父さまは、澪を保身の道具にするなどと言っていないだろう!」

長い睫毛に覆われた目を細め、苦虫を噛み潰したかのような表情で弟が父を見据えると、父は激昂したように勢いよくソファから立ち上がる。

「ちょ、ちょっとふたりとも、落ち着いて……っ」

私は慌てて身を乗り出し、わたわたと手を動かしながら仲裁に入る。

昔はすこぶる仲が良かった父と弟だったが、最近はその仲に亀裂が入っている。
確か二年前、お祖父さまの遺産相続手続きが終わった後くらいから、櫻衣商事の経営方針で意見が割れているようになって……。
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