冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
引っ張られるままに慌てて立ち上がった私は、三十センチ以上高い位置にある弟の双眸と視線を合わせる。

「い、行くって、どこに?」

「実家から独立しに」

「へ? ……って、ちょっと待って。湊征っ」

姉の威厳もむなしく、私は急かされるまま、二階の自室でボストンバッグの中に化粧品や下着を詰めさせられる。
そして強引に連れ去られるように玄関を潜り、湊征の運転する車に乗せられることとなった。



湊征の運転する車に乗ったのは二年ぶりだろうか。
真剣な顔つきで運転する横顔は大人びていて、私よりずっと年上みたいだ。弟の姿にひしひしと成長ぶりを感じて、なんだか感慨深い。

しかし、どこか深く考え込んでいるような表情にも湊征に対して、『さっきお父さまとしていた話だけど、何があったのか詳しく聞いてもいい?』とはなぜだか問い辛くて、私は気まずさを埋めるように車窓へ視線を向ける。

菊永ホールディングスの御曹司である菊永宗鷹さんと言えば、父に付いて出席したパーティー会場で出会えば挨拶を交わし、当たり障りのない会話をする程度の仲だ。
一番長く会話をしたのは、それこそ祖父の葬儀の日くらいだろう。

そんな、知人と定義づけるのにも困惑するような関係でしかないのに、いきなり結婚しろだなんて……っ。
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