冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
結婚は、一生を左右する大きな決断だ。
頭も心も混乱している今は、とにかく少しでも考える時間が欲しかった。

車内は無言のまま、港区にある見知らぬ高級住宅街へ辿り着く。
そうして彼が車を止めたのは、現代的で瀟洒な外観の超高層分譲マンションの前だった。

「地下の駐車場に車を置いてくるから」と先に車寄せの前に降ろされた私は、ぽかんとしたままエントランスアプローチを歩く。

十一月末ともなると、街路樹の銀杏(いちょう)のほとんどは木枯らしで散り、黒い御影石が敷かれた歩道の脇に鮮やかな黄色い絨毯を敷いている。

奥に見えるガラスカーテンウォールを用いた高層マンションとのコントラストが壮麗で、まるで冬めく別荘地へ旅行にでも来ているかのような気分になった。

それからしばらくして合流した弟に案内されたのは、最上階の三十二階にある彼の自宅だった。

「わぁ〜。マンションで一人暮らし中とは聞いていたけど……」

百平米を超えるリビングダイニングはホテルライクでシックな調度品に囲まれており、『一人暮らし』と聞いて勝手に想像していた物件とは、随分とかけ離れている。

そんな室内をぐるりと見まわしながら、思わず私は「すごいね」と呟く。
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