冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
「ちょ、ちょっと待って。一人暮らしを体験って……湊征は? いないの?」

「僕は仕事の都合上、ここへは当分の間帰宅できそうにないから」

彼は肩を竦めると、私の頭の天辺にぽむっと大きな手のひらを優しく乗せた。

湊征は銀座の一等地に構えたamnis日本第一号店の開店を明日に控えている関係で、本拠地だったフランスから久しぶりに帰国していた。
そんな様々な業務が忙しい最中、先週末からこの祝日までの予定を空けて実家に帰省してくれた理由は、ひとえに昨夜行われた私の誕生日会のせいだ。

「忙しい時に、私のことで巻き込んじゃってごめんね」

誰がどんなに忙しくても家族の誕生日には実家で過ごす、というのが我が家の恒例行事となっているために、いろいろと無理をさせてしまって申し訳なく思う。
それだけでなく、湊征は唐突な縁談話から私を守るために、独り立ちの手助けまでしてくれようとしている。

本当は、姉の私が弟の湊征を助けたり守ったりするべきなのに……これじゃあ立場が逆じゃない。
頼りないお姉ちゃんすぎて、心底不甲斐ないよ……。

私はがくりと肩を落として項垂れる。「本当にごめんね」と眉をへにゃりと下げた顔で、改めて弟を見上げながら謝罪した。

「ううん。むしろ、巻き込んだのは僕の方だ。櫻衣商事再建の件で、父さまを納得させられなかった僕の責任だから」

「そんなことない」
< 23 / 162 >

この作品をシェア

pagetop