冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
そう送ると、しばらく経ってから母より【突然の縁談で驚かせてごめんなさいね。無理をせず、体には気をつけてね】と返信があった。

同じ頃に父も既読したようだが、返信はない。
……お父さまは、やっぱり怒ってるよね。勝手に会社を辞めた挙句、結婚からも逃げて、一人暮らしなんて。

櫻衣商事の力になりたかっただけなのに、これじゃあただの足手まといだ。
せめて、この結婚の話を円満に解決するための努力はしたい。

……ううん。櫻衣家の長女として、一人の女性として、努力させてほしい。

既読無視されたままの画面を見つめていると、なんだか鼻の奥がツンとして、視界がぼやけた。



翌朝。湊征は予定通り、陽も昇らぬうちから出勤していった。

さあて、いよいよ人生初、期間限定の〝一人暮らし〟が始まりだ。
早速パジャマから洋服に着替え、メイクをして髪の毛を整える。身支度が終わったら、少し早いけれど朝食を摂ることに。

まずは、昨夜のうちに近所のベーカリーで買ってきたクルミとレーズンがたっぷり入ったハードパンを、オーブンでカリッと焼き戻す。
それから北海道産の濃厚なバターを塗って……。

「んんーっ。美味しい」

ぱくっと食べると、いつもの朝とは違う爽やかな味が口の中いっぱいに広がる。
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