冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
今日は一日中メイクを直してもいないし、きっと酷い色に違いない。

「恥ずかしいので、あまり見ないでください」

消え入りそうな声で答えながら、私は彼の指先から逃げるようにぎゅっと両目を瞑る。
すると、宗鷹さんは「すまない」と短く謝罪して、指先を離した。

彼は眉間にシワを寄せて難しい顔をして、私から離した長い指先でこめかみを押さえる。

「君が眠れなくなったのは、いつからなんだ」

「詳しい期間はわからないんですが……。自分の魘される声で目覚めるようになったのは、二年くらい前からでしょうか」

毎日やっとの思いで眠っても、気がつけば『うーっ、うーっ』と悲鳴のような唸り声を上げている。
それは小さくか細い声だが、一夜のうちに何度も発していれば、やっぱり目が覚める。
けれどもそれが長期間に及んでいくうちに、だんだんと慣れてしまっていた。

慣れたからと言って、睡眠の質が改善されるわけではない。
目に見えない疲労や心労は、結局自分自身でも気づかぬうちに、体を蝕んでいたというわけだ。

「……そうか。ゆっくり湯船に浸かって疲れを取るように、と言いたいところだが……今晩は体調に触るといけないからな。早めに上がるように」

宗鷹さんは心配の色を濃くして私と視線を合わせると、ふっと柔らかく両目を細める。
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