冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
今はもう目眩や息切れはないが、まだ時々動悸や頻脈の症状が残っている。彼の言う通り、用心するに越したことはないだろう。

それにしても、家族以外の誰かに体調を気遣ってもらったのは、久しぶりのような気がする。
退職するまでは、毎日メイク道具を駆使して血色の良い顔を作り上げては、から元気だろうがなんだろうが、とにかく明るい笑顔で乗り切っていたから。

それで良いと思っていたけれど、こうやって声をかけてもらえるのは……なんだか、くすぐったい。

胸の奥にあった氷塊が、じわじわと溶けていくような安心感に包まれる。

「はい。あの、ありがとうございます……宗鷹さん」

私は素直にお礼を告げる。
すると、宗鷹さんは虚をつかれたように目を丸くした。

「あ、ああ」

彼は少しだけ困惑したように目をそらし、視線を彷徨わせる。
それから、何かに堪えるように、男性らしい骨ばった大きな手のひらで自身の口元を覆うように隠した。



彼が出て行ったあと、私はなんだか不思議な気持ちになりながら、脱衣所で素早く衣服を脱いでシャワーを浴びた。

「流石に下着の替えだけは、隣へ取りに行きたかったんだけど……。宗鷹さんって、案外過保護なところがあるのかな? ……うーん、そんなわけないか」
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