冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
婚姻届にサインしたとはいえ、夫婦になったとは言い難い。
それ以前に私たちは友人でもないし、恋人でもないのだ。勝手に彼の家の中を歩き回るのは、失礼にもほどがある。

……ご迷惑になるかもだけど、宗鷹さんを探して直接聞くしかない。

時刻はすでに二十時を回っている。
もしかしたら夕食の最中かもしれないし、会社から持ち帰った仕事を片付けている最中かもしれない。

書斎にはいなかったし、だとするとリビングルームだろうか?

助けてもらっただけでなく、こうして度々時間を割いてもらうのを申し訳なく思いながら、橙色の柔らかい光が漏れている磨り硝子が嵌め込まれた扉の前まで歩き、意を決してノックする。

耳を澄ませて待つが、中からの返事はない。もう一度ノックしてみても、結果は同じだった。

うーん、どうしたものか。でも、勝手にうろうろする方が失礼だろうし……。
私はうんうんと迷いに迷って、リビングルームの扉を開けた。

きょろきょろと室内を見回すと、黒い革張りのソファに座る宗鷹さんを見つける。

彼は肘掛に頬杖をつきながら、反対の手には資料と思わしき書類を持ち、真剣な表情で内容に目を通していた。
琥珀色の双眸を覆う長い睫毛が、頬に影を落としている。
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