冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
廊下を出て、どっちに行って、どこどこと説明されても、私レベルの方向音痴ではもはや寝室へ辿りつけない。

「できれば一緒にというか……連れて行って欲しいん、です、が」

羞恥心から頰に熱が集まる。
お仕事中に変なお願いをして、本当に本当に大変申し訳ないです……!

「……はあ」

書類をばさりとローテーブルに置いた彼は、『心底呆れた』と言わんばかりに盛大なため息を吐く。

やっぱりそういう反応をしたくなりますよねっ。
ごめんなさい、ごめんなさい、と何度も心の中で頭を下げる。

宗鷹さんは腰掛けていたソファから緩慢な動作で立ち上がって、首の裏に手を当てて凝りを解すような仕草をしながら、なんらかの感情を逃がすように「ふう」と天井を仰いだ。

それから、ゆっくりと彼は私を見下ろす。

「初心すぎるのも考えものすぎる。君は俺をどうしたいんだ」

苦しげに眉を寄せる彼の双眸には、逃がし切れなかった感情が仄暗く揺らめいている。

まるで今この瞬間にも制御できなくなりそうに鋭く、熱い、ふつふつと滾る感情を、彼は必死で自分の内側に閉じ込めているみたいだった。
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