冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
場違いな微笑みをくしゃりと浮かべると、宗鷹さんは鋭い目元を切なそうにやわらげ、「もう寝よう」と哀愁を帯びた声音で告げた。

「は、い」

その言葉を合図に、彼はベッドに入ってくる。
私の隣に長身を横たえた彼は、こちら側を向くと、「おいで、澪」と甘い命令を下すような声音で私を呼んだ。

部屋の明かりは全て消えており、暗がりの中でベッドサイドに置かれたシェードランプだけが淡く光っている。
恥ずかしくなって少しでも身じろぎをすれば、小さな衣擦れの音がして、さらに恥ずかしくなった。

「ん、来ないのか?」

圧倒的な大人の色気が漂う彼に気圧されてしまう。
ううう。こんなの、オキシトシンを出してくれる抱き枕としては絶対に不合格だ。

だけど、もしも、彼の逞しい腕に抱かれて眠ることができたら……。

夢見心地であたたかな気分になれる、かもしれない。
ぐっすりと安心して眠れて、幸福感に満ちた朝を迎えられるかもしれない。

それに……いつか、愛が生まれるかもしれない。
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