クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 実は、ランベールが十五歳のとき、十一歳の彼女と出会っているのだ。そのときが本当の初めての出会いになる。
 だが、彼女は知らない。記憶にないのかもしれないし、そのときとはまるで容姿が変わっているから思い出せないかもしれない。仮にそうだとしても、ランベールはあえて話題に出そうとは思わなかった。
 ランベールはただ、あの日折れそうだった心にあたたかな灯火をくれた王女殿下のために、いつか恩返しができればと考えていた。ただ彼女を守りたい一心だった。
 この話を、今レティシアにするつもりはない。ただ、ランベールは彼女のために忠義を誓いたいだけだ。
 けれど、レティシアの結婚が正式に決まり、彼女の側を離れる日がきたなら、そのときは別れの挨拶と共に、過去を含め、感謝の気持ちを伝えたいと思っていた。
 彼女のために騎士を目指してきた日々や、彼女のために尽くせる任務につけたことには満足をしているランベールだったが、そんな彼にもひとつだけ重大な誤算があった。
 それは――主従関係におさまらない、彼女への特別な感情だ。
「ランベールったら、どうしたの」
 テーブル越しに身を乗り出してきた彼女の大きな瞳にじっと見つめられ、ランベールはハッとする。
「失礼しました」
 すっかり考え込んでしまっていた。
「お話をするの、疲れてしまった?」
 心配そうにレティシアがじいっと見つめてくる。猫のようなつぶらな瞳とカールした睫毛には、濡れたような色気があり、不意打ちだったので、心臓が妙な音を立てた。
 何が起きても平常心でいられるランベールが、心を乱すことがあるとすれば、それは彼女のことだ。彼女ももうあの頃の少女ではない。一人前の女性なのだ。意識しないわけがなかった。
「大丈夫ですよ。そんなことありません」
 平静を装いながらも、鼓動は早鐘を打っていた。動揺を悟られないように、ランベールの全身がこわばる。
「そう? 私のことばかり心配しないで、あなたも自分を大事にしなきゃだめよ」
 と、レティシアは柳眉を逆立てた。
「すみません」
 彼女は昔から変わらず、人の心配ばかりする。王族なのだから、そこまで臣下に気を遣う必要などないというのに。しかし、そういうところが、彼女の好ましいところだ。
< 12 / 97 >

この作品をシェア

pagetop