クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 いつかこの国は破綻するかもしれない。そんなふうに感じたことを。
 そして、改めて憂う。
 この国は、たったひとりの王女を閉じ込めたままでいいのだろうか、と。

▼節タイトル
第二章 募る恋心

▼本文
 あとひと月もすれば、レティシアの誕生日がやってくる。毎年、薔薇が咲きこぼれる季節には、王女の誕生祭が開催され、王宮では賓客を招いて舞闘会を、城下町では民が七日間にわたって祝祭の日のパレードを楽しみに、各地で催しが行われる。きっと今年も盛大に祝われることだろう。
 賑やかな誕生祭をいつも楽しみにしているレティシアだったが、今年はちょっと違った。なぜなら、誕生祭の場で、レティシア王女の婚約を発表してはどうか……という噂が耳に入ってきていたからだ。
 どこの国の誰が相手になるのか、そういった情報はいっさい教えてもらえない。相手が誰であっても、国の有利になるように、王女であるレティシアには従うべき義務がある。ただそれだけのことだ。彼女も相手のことをわざわざ知りたいとは思わなかった。
 好きな人はたったひとりだけ。その人と結婚できないなら、誰が相手でも同じことだ。
(ついに、そういう日が来てしまうのね……)
 雨に濡れた小鳥のようにしょんぼりと落ち込んでいるレティシアに、彼女を湯殿から部屋へと案内していたクロエが、励ますように言った。
「レティシア様、お誕生日も近いですし、舞踏会に向けてダンスレッスンを受けてはいかがですか。気分転換にもなりますよ」
 それを聞いても、レティシアは少しも乗り気がしなかった。
「私、実はあまりダンスが得意ではないのよね」
 と、レティシアは肩をすくめる。
 もちろん王族の嗜みとして、ダンスの先生に習ったとおりになら多少は踊れる。けれど、淑女らしく堂々と胸を張って踊れる自信はないし、誰かと踊って楽しいと思ったこともない。あくまで公務の一環というふうにしか感じたことはなかった。
「それなら、なおさら克服するよい機会になるのでは?」
 クロエの言葉に触発され、レティシアはあることを閃いた。
「そうだわ。上手に踊れるようになったら、舞踏会だけではなくて、もっと外に出られるように話を聞いてもらえるかも……」
 一週間前、ランベールが遠征から戻ってきたときに、そんな話をしていたことがあった。
 国の花という象徴として、輝いていることは大事なことだ。
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