クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
花瓶に活けてある黄色のクロッカスは今日の朝にはすっかり萎れてしまっていた。いくら水揚げをして陽にあてても回復することはなかった。花の状態は、まるで今の自分みたいだ、とレティシアは思う。
(こんなの、私らしくないわよね……)
離宮に籠もるだけでなく、心まで閉じこもって、嘆いていたって仕方がない。これから先のことを見据え、自分にできることを試してみてからでも遅くないだろう。
クロエは母あるいは姉のように、いつもレティシアのことを考えてくれる。そんなやさしい侍女の思いも無駄にはしたくなかった。
「わかった。私、そうしてみるわ」
レティシアが瞳を輝かせると、クロエも嬉しそうに微笑んだ。
「では、さっそく段取りを相談してまいりますわ」
と言ってから、クロエが何かに気をとられたらしい。
「あら。ランベール様だわ」
と、別の方に視線を向けた。
「え、どこに?」
レティシアは慌ててクロエの視線をたどり、回廊の反対側へと目を向けた。
そこにはたしかにランベールの姿があった。彼の立ち姿を見て、胸の鼓動が急に跳ねた。彼はメイドと何か親しげに話をしている様子だった。はっきりと声は聞こえないが、楽しそうだ。
ランベールを見つけて嬉しくなったのもつかの間、メイドに向けられている彼の飾らない笑顔に、ショックを受ける。
いつも任務についているときは寡黙で、常に周りに気を配って警戒し、油断することはない。あんなふうに誰かと馴れ合っているところも一度も見たことがない。
けれど実際のところは知らない。自分の側でだけ素顔を見せてくれるとレティシアが勝手に思い込んでいただけかもしれない。
レティシアが知らないだけで、彼は普段からあんなふうに誰かと過ごしているのだろうか。それとも、あのメイドが特別な存在なのだろうか。実際、使用人同士が結ばれることは、クロエ曰くよくあることらしい。
レティシアの護衛の任務以外に、離宮に彼が来ることはない。それなのに、ランベールが今ここにいるのは、わざわざ、あのメイドに会いにきたということだろうか。ひょっとして彼らは交際しているのだろうか。
疑惑と不安と嫉妬と、様々な負の感情がこみ上げてきて、胸の中にどんどん薄暗い靄が広がっていく。
とうとうふたりを見ているのが辛くなってしまい、レティシアはうつむいた。
(こんなの、私らしくないわよね……)
離宮に籠もるだけでなく、心まで閉じこもって、嘆いていたって仕方がない。これから先のことを見据え、自分にできることを試してみてからでも遅くないだろう。
クロエは母あるいは姉のように、いつもレティシアのことを考えてくれる。そんなやさしい侍女の思いも無駄にはしたくなかった。
「わかった。私、そうしてみるわ」
レティシアが瞳を輝かせると、クロエも嬉しそうに微笑んだ。
「では、さっそく段取りを相談してまいりますわ」
と言ってから、クロエが何かに気をとられたらしい。
「あら。ランベール様だわ」
と、別の方に視線を向けた。
「え、どこに?」
レティシアは慌ててクロエの視線をたどり、回廊の反対側へと目を向けた。
そこにはたしかにランベールの姿があった。彼の立ち姿を見て、胸の鼓動が急に跳ねた。彼はメイドと何か親しげに話をしている様子だった。はっきりと声は聞こえないが、楽しそうだ。
ランベールを見つけて嬉しくなったのもつかの間、メイドに向けられている彼の飾らない笑顔に、ショックを受ける。
いつも任務についているときは寡黙で、常に周りに気を配って警戒し、油断することはない。あんなふうに誰かと馴れ合っているところも一度も見たことがない。
けれど実際のところは知らない。自分の側でだけ素顔を見せてくれるとレティシアが勝手に思い込んでいただけかもしれない。
レティシアが知らないだけで、彼は普段からあんなふうに誰かと過ごしているのだろうか。それとも、あのメイドが特別な存在なのだろうか。実際、使用人同士が結ばれることは、クロエ曰くよくあることらしい。
レティシアの護衛の任務以外に、離宮に彼が来ることはない。それなのに、ランベールが今ここにいるのは、わざわざ、あのメイドに会いにきたということだろうか。ひょっとして彼らは交際しているのだろうか。
疑惑と不安と嫉妬と、様々な負の感情がこみ上げてきて、胸の中にどんどん薄暗い靄が広がっていく。
とうとうふたりを見ているのが辛くなってしまい、レティシアはうつむいた。