クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 クロエのやさしい忠告などまったく役には立たなかった。ぽっと見惚れながら彼の元へ行こうとした途端、レティシアはつまずきかけてしまう。
「きゃっ」
 とっさに、ランベールが駆けつけ、力強い腕の中に受け止めてくれた。
「大丈夫ですか。殿下」
 騎士の護衛の時間でないときでさえも、彼はレティシアを守ることを最優先にしてくれる。それなのに自分は王女らしくない。レティシアは恥ずかしくなってしまった。
「え、ええ。大丈夫。ちょっとだけ緊張していて」
 ランベールの腕にしがみつき、どうにか体勢を整えて顔を上げると、彼と目が合った。その瞬間、たちまち火がついたかのようにレティシアの顔が熱くなった。
 ランベールの髪はきっちり纏めてあり、端正な顔立ちがよりいっそう美しく際立っている。眉や頬にかかっていた髪の分、普段隠されていた魅力が惜しげもなくあらわになったせいだろうか。
(ど、どうしよう。心臓のドキドキが……止まらないわ)
 普段から素敵だと思っていた彼が、それ以上に格好よくて、レティシアは彼を直視するのがいたたまれなくなり、彼の胸にしがみつくように手を添えて、うつむいてしまう。鼓動は相変わらず早鐘を打ち続けていた。
「とてもおきれいですよ。想像どおりに。いえ、想像していた以上に」
 低くて甘い声に追い打ちをかけられ、そのやさしい言葉にも胸がときめく。この調子では、いつものようなやりとりは難しいかもしれない。とにかく意識しすぎてしまっている。
「……そ、そうかしら」
 と、小さく返すだけで精一杯だった。
「ええ。いつもですが、今日は特別に」
 やさしい声色に緊張をほどかれ、レティシアはそろりと顔を上げてみる。
 お世辞にも本心が込められている。それが彼の眼差しから伝わってきて、胸がじわりと熱くなった。
 微笑みかけてくれるランベールに、レティシアは照れたまま笑顔を返した。
「嬉しい。あなたもとても素敵」
「不慣れなので、おかしいところがあればご指摘ください」
 ランベールは面映いような顔をして、そう言った。彼もいつもと違う衣装を着ているのが落ち着かないらしい。
「あなたの胸元のお花、ちょうど私のドレスとおそろいね」
「ええ。自然と思い浮かんで……」
 ますますレティシアは嬉しくてたまらなくなる。
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