クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 その光景を同じように直視できずにいたレティシアだったが、改めてお礼を言おうとして、ランベールの顔を見た瞬間、彼女は驚愕した。
 ランベールの顔が真っ赤になっているではないか 。
「大変! ランベール。やっぱり怪我をしたのね?」
「だい、じょうぶです。気になさらないでください」
「どこか痛いなら、何か冷やすものを……」
 焦って泣きたくなっていたレティシアを尻目に、ランベールがなぜかきまり悪そうな顔をした。
「いえ。その……これは、怪我ではないんです」
「でも、顔が赤いわ。怪我ではないなら熱でもあるんじゃないかしら?」
「これは、できればあまり言及しないでいただきたいのですが、端的に言うと、きっとのぼせてしまったんですね」
 彼らしくなく、なんだか歯切れが悪い。
「のぼせ……?」
 レティシアは思わず目をぱちくりと瞬かせた。
「あまりに美しくなられた殿下と……その、一緒にこんな素敵な時間を過ごせる上に……さっきのハプニングも……私にしてみれば、それくらい一大事なのです」
 柄にもなく、ランベールは照れている。レティシアはきょとんとしてから、その意味を遅れて悟った。
「あ……そ、そういう……こと」
「……そう、いうことです、ね」
 それから、ふたりは顔を見合わせて笑った。
 お互いにどうやら浮かれていたらしい。きっと、ランベールは自分が恥ずかしくてなってしまったのだろう。
 レティシアは彼に悪いと思いながらも、いつもの彼らしくない姿が、お腹を抱えるほどおかしかった。
「ごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけれど」
 目尻に浮かんだ涙を拭いながら、レティシアは笑いをこらえる。
 ランベールはまだばつの悪い顔をしていた。
「いえ。物語よりも面白い展開ですね。素敵なひとに見惚れるあまりに、鼻血を出してしまうという、騎士にあるまじき情けない失態ですが」
 あまりにレティシアが笑うので、ランベールも開き直ったのか自虐的にそう言った。ますますおかしくなってしまい、レティシアは脇腹のあたりが痛くなった。
「もう、やだ。ランベールったら」
「それくらい、殿下が、魅力的な女性ということですよ。だから、自信をもってください」
 ランベールの飾らない言葉に、レティシアは真顔に戻ってしまう。彼の瞳に捕らえられ、胸のどこかが大きく跳ねた。
< 28 / 97 >

この作品をシェア

pagetop