クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
褒められて嬉しいはずなのに、どうして苦しくなっていくのだろう。
レティシアはとっさに視線を外し、髪を耳にかけるふりをしてごまかした。
「えっと、じゃあ今日は、ここまでにしましょうか」
「もう、よろしいのですか?」
「いいの。また怪我をするといけないから」
「……それも、そうですね」
と、ランベールは首のあたりを掻いた。
「付き合ってくれてありがとう。ランベール」
「どういたしまして。誰より美しい、王女殿下 」
ランベールはそう言い、レティシアの手の甲にそっと敬愛を込めたキスをくれた。
そのキスを頬にくれたら、唇にしてもらえたら。そんなふうに願いたくなる。
彼はレティシアが望むことなら、なんでもしてくれるだろう。
けれど、そうではない。彼の心が、レティシアはほしかった。誰よりも愛しい彼のことが。彼との未来が。
「ランベール、私……」
伝えてしまいたい。彼が好きだと。あなたに恋をしているのだ、と。そんな衝動が喉のあたりまで出てきていた。
「はい」
「う、ううん。なんでもないの。とても楽しかったわ。ありがとう」
レティシアは出かかった言葉を慌ててのみこみ、笑顔を向けた。
小鳥のおしゃべりと同じように、あなたのことが好きだと素直に告げられたらどれだけ幸せだろうか。
こんなふうにしていられる日も残りわずかだと思うと、どうしようもなく胸が震えて仕方がなかった。
▼節タイトル
第三章 離れたくない
▼本文
ダンスレッスンの数日後――。
レティシアは部屋に閉じこもって、物思いに耽るようになった。ため息はもう何度ついたかわからない。
そんな彼女を見かねたのか、クロエが度々声をかけてくるのだが、レティシアはどうしても外に出る気になれなかった。
「殿下、あたたかくなりましたし、お庭に出ませんか? 今日は風がとても気持ちいいですよ」
クロエがレースカーテンを開いて、バルコニーのドアを勢いよく開く。初夏の心地のいい風が流れ込んできて、カーテンを揺らした。
「そうね。でも今はいいの」
「ほら、薔薇もだいぶ見頃になりましたし、お庭でお茶をお入れしようと思っていたのですが」
たしかに、薔薇の芳醇な甘い香りが、バルコニーの方から風に乗せられて漂ってくる。きっと、ますます薔薇園は生い茂っていることだろう。けれど今はそんな気分にはなれなかった。
レティシアはとっさに視線を外し、髪を耳にかけるふりをしてごまかした。
「えっと、じゃあ今日は、ここまでにしましょうか」
「もう、よろしいのですか?」
「いいの。また怪我をするといけないから」
「……それも、そうですね」
と、ランベールは首のあたりを掻いた。
「付き合ってくれてありがとう。ランベール」
「どういたしまして。誰より美しい、王女殿下 」
ランベールはそう言い、レティシアの手の甲にそっと敬愛を込めたキスをくれた。
そのキスを頬にくれたら、唇にしてもらえたら。そんなふうに願いたくなる。
彼はレティシアが望むことなら、なんでもしてくれるだろう。
けれど、そうではない。彼の心が、レティシアはほしかった。誰よりも愛しい彼のことが。彼との未来が。
「ランベール、私……」
伝えてしまいたい。彼が好きだと。あなたに恋をしているのだ、と。そんな衝動が喉のあたりまで出てきていた。
「はい」
「う、ううん。なんでもないの。とても楽しかったわ。ありがとう」
レティシアは出かかった言葉を慌ててのみこみ、笑顔を向けた。
小鳥のおしゃべりと同じように、あなたのことが好きだと素直に告げられたらどれだけ幸せだろうか。
こんなふうにしていられる日も残りわずかだと思うと、どうしようもなく胸が震えて仕方がなかった。
▼節タイトル
第三章 離れたくない
▼本文
ダンスレッスンの数日後――。
レティシアは部屋に閉じこもって、物思いに耽るようになった。ため息はもう何度ついたかわからない。
そんな彼女を見かねたのか、クロエが度々声をかけてくるのだが、レティシアはどうしても外に出る気になれなかった。
「殿下、あたたかくなりましたし、お庭に出ませんか? 今日は風がとても気持ちいいですよ」
クロエがレースカーテンを開いて、バルコニーのドアを勢いよく開く。初夏の心地のいい風が流れ込んできて、カーテンを揺らした。
「そうね。でも今はいいの」
「ほら、薔薇もだいぶ見頃になりましたし、お庭でお茶をお入れしようと思っていたのですが」
たしかに、薔薇の芳醇な甘い香りが、バルコニーの方から風に乗せられて漂ってくる。きっと、ますます薔薇園は生い茂っていることだろう。けれど今はそんな気分にはなれなかった。