クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
「見てみたいけれど、また今度にするわ。できたら、ミントティーが飲みたいの。部屋にお願いできる?」
「……かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
 クロエはさっそくミントティーを持ってきてくれると、レティシアの様子を気にかけつつも、すぐに部屋をあとにした。今はそっとしておいた方がいいと察してくれたのだろう。
(ありがとう。クロエ……)
 クロエの心遣いに感謝をしながら、レティシアはミントティーを口にした。
 すうっとしたミント特有の香りで、重苦しい感情が少し和らぐ気がする。それからレティシアは、ランベールにもらった押し花の栞を作りながら、彼の笑顔を思い浮かべた。
 少しでも長い時間、側にいられたら満足できると思っていたのが間違いだったかもしれない。新しい彼を知るたび、ダンスレッスンをはじめてから、前より一緒にいる時間が長くなるにつれ、 彼をもっと愛しく感じてしまう。まったく逆効果だった。
 ランベールはずっと側にいてくれたから、これから先もずっと一緒にいてくれるものだと、勝手に思い込んでいたところがあったかもしれない。そんなはずはないのに。
 レティシアがどこかに輿入れをすれば、ランベールには会えなくなる。護衛から外れるだけではなく、王宮のどこにも姿を見ることができなくなる。外国に行ってしまったら、二度と会うことが叶わなくなる。
 顔が見られなくて、声も聞けなくて、触れることだってできない。
 そう思ったら、いてもたってもられなくなってしまう。その衝動をなんとか堰き止めるので今は精一杯だった。
 レティシアは完成した押し花の栞を胸のあたりに引き寄せ、唇をかんだ。
(ランベール……私、あなたと離れたくない……)

     ***

 市街地での任務交代の時間を迎えたランベールは王都に馬を走らせながら、数日前のダンスレッスンのことを思い浮かべていた。
 あれから、レティシアのことが気がかりで、彼女のやわらかいぬくもりばかりが脳裏にちらついてしまう。
 いくら騎士とはいえ、中身はひとりの男だ。好ましく想っている女性に下心がまったく芽生えないわけではない。ただ、主への忠誠を叩き込み、瞬時に理性を切り替えることができるというだけだ。
(しかし、このところ自制心が足りていないな……)
 ランベールは自責の念に苛まれていた。
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