クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
あの日、レティシアはいつになくはしゃいでいた。普段、離宮に閉じ込められている彼女は、練習とはいえ、舞踏会の場に出られたような気分になり、さぞ嬉しかったことだろう。
クロッカスの花に似た明るい黄色のドレスは、溌剌とした彼女をとても美しく魅せていた。彼女の瞳とおそろいのエメラルド色のイヤリングも、デコルテに飾られたネックレスも、とても似合っていた。
なにより、彼女自身が、できるならばそのまま、ずっと飾っていたいと思うくらい、綺麗だった。
元から彼女は花のように可愛らしかったが、年を重ねるごとに、ますます美しくなっていく。ランベールは、どこか寂しいような、甘い感傷に苛まれていた。
いつか彼女は、空へと舞う蝶のように、手の届かないところへ行ってしまうのだろう。それでも、彼女が幸せであれば、ランベールはよかった。そのはずだった。
だが、レティシアが愛らしい仕草をするたび、笑顔を向けてくれるたび、鉄壁の理性が脆く崩れていく。自分のものにしたい……そういう感情が一時的にでも湧き上がるなど、あってはいけないことだ。
しかし白状すれば、寝付けない夜には、彼女の優しい笑顔や、自分を呼ぶ声を思い出した。
無論、大事な任務の最中には、そういった卑しい煩悩を持ち出すことは一切ないが、たとえそうでも、こんな不埒な思考を持っていると彼女が知ったら、さぞ軽蔑することだろう。
(王女殿下……か)
騎士団の宿舎に到着し、ランベールは外の任務用の黒い軍服から、王宮内勤務用の白い軍服に着替えながら、白と黒とどちらともつかない自分の感情を嘲った。
こんな感情は今すぐに捨てなければならない。自分にはそれよりもやるべきことがある。
ランベールは淡い想いをかき消し、緩みかけていた表情を引き締めた。自分には果たさなければならない任務があるのだ。
***
東西南北四つの大国といくつかの小国に囲まれた中央の国、グランディアス王国。それだけ多数の国境の管理や警備が必要で、騎士団に所属する国境警備隊がその任務を負う。
また、定期的に調査報告を得るために斥候が往復し、時には任務交代のため、別の騎士団が遠征に赴くことがある。
普段、王女の護衛を最優先の任務としているランベールも、レティシアが離宮を離れない日程に合わせ、騎士団の一員として出立することになっている。
クロッカスの花に似た明るい黄色のドレスは、溌剌とした彼女をとても美しく魅せていた。彼女の瞳とおそろいのエメラルド色のイヤリングも、デコルテに飾られたネックレスも、とても似合っていた。
なにより、彼女自身が、できるならばそのまま、ずっと飾っていたいと思うくらい、綺麗だった。
元から彼女は花のように可愛らしかったが、年を重ねるごとに、ますます美しくなっていく。ランベールは、どこか寂しいような、甘い感傷に苛まれていた。
いつか彼女は、空へと舞う蝶のように、手の届かないところへ行ってしまうのだろう。それでも、彼女が幸せであれば、ランベールはよかった。そのはずだった。
だが、レティシアが愛らしい仕草をするたび、笑顔を向けてくれるたび、鉄壁の理性が脆く崩れていく。自分のものにしたい……そういう感情が一時的にでも湧き上がるなど、あってはいけないことだ。
しかし白状すれば、寝付けない夜には、彼女の優しい笑顔や、自分を呼ぶ声を思い出した。
無論、大事な任務の最中には、そういった卑しい煩悩を持ち出すことは一切ないが、たとえそうでも、こんな不埒な思考を持っていると彼女が知ったら、さぞ軽蔑することだろう。
(王女殿下……か)
騎士団の宿舎に到着し、ランベールは外の任務用の黒い軍服から、王宮内勤務用の白い軍服に着替えながら、白と黒とどちらともつかない自分の感情を嘲った。
こんな感情は今すぐに捨てなければならない。自分にはそれよりもやるべきことがある。
ランベールは淡い想いをかき消し、緩みかけていた表情を引き締めた。自分には果たさなければならない任務があるのだ。
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東西南北四つの大国といくつかの小国に囲まれた中央の国、グランディアス王国。それだけ多数の国境の管理や警備が必要で、騎士団に所属する国境警備隊がその任務を負う。
また、定期的に調査報告を得るために斥候が往復し、時には任務交代のため、別の騎士団が遠征に赴くことがある。
普段、王女の護衛を最優先の任務としているランベールも、レティシアが離宮を離れない日程に合わせ、騎士団の一員として出立することになっている。