クールな騎士はウブな愛妻に甘い初夜を所望する
 無論、任務はそれだけではない。先日は国内のレジスタンスの討伐に行き、荒れた村の復興のためにも働いていた。
 平和主義の中立国とはいえ、万が一、他国と戦火を交えることになれば、戦場に出ることにもなるだろう。そんな日が来ないことを、王女であるレティシアは心から願っている。
 騎士団が外に発つ日は、どんなときでも必ずランベールは会いにやってくる。別に王女に対する報告の義務はないというのに。
 彼はやさしいから、レティシアを安心させる言葉をかけてくれるのだ。
 そしていつもどおりならこう言うだろう。
『またお花をお土産にします』と。
 レティシアは何度目かになるその言葉を聞いて、初めて拒むように首を横に振った。
 いつもと違う彼女の反応に、ランベールは当然驚いた顔をし、心配そうにレティシアを見つめてきた。
 レティシアとしても彼に申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、もう、自分の気持ちを偽ることができなかった。
 今日という今日は、彼に想いを伝えたい。たとえ一番大切で大好きな彼が困った顔をしようとも。そういう覚悟での拒絶だった。
とはいえ、どんなふうに話を切り出したらいいか。レティシアは唇を噛んだ。
「レティシア様、どうなさいましたか。いつもの元気がないですね」
 ランベールが気にかけてくれていることに胸がいっぱいになる。レティシアは二つの感情で揺れていた。彼を困らせたくはないし嫌われたくもない。でも、気持ちを伝えたいし知ってほしい。
 そんな矛盾ばかりが胸の中でせめぎ合い、彼への恋しさがどんどんふくらんでいってしまう。暴走しないようにかき集めた想いを必死に胸の中に押し留め、レティシアは硬く閉ざしていた唇をようやく開いた。
「実は、あなたにお願いがあって……」
 声が、震えてしまっていた。
「なんでしょう?」
 ランベールに見つめられると、また言えなくなってしまいそうになる。けれど、レティシアは勇気を出して告げた。
「今度は、お花ではなく……形のあるものがほしいの」
 その瞬間、全身の血液が沸騰するくらいに熱くなった。でも、彼女は目をそらずにランベールを見つめた。どうか今までのことを否定するわけではないのだとわかってほしいと願いを込めて。
 彼はわずかに目を見開いたが、動じることはなかった。
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